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技術解説

導波路方式 (Waveguide) とは? AR グラスの本命技術を解説

眼鏡型 AR グラスの中核を担う導波路 (Waveguide) について、原理 / 種類 / 採用機種 / 課題と将来性を一次情報を踏まえて整理した技術解説記事です。

スマグラ Journal 編集部/ 編集部17 分で読める

「眼鏡レンズに映像を映す」AR グラスの中核技術が、導波路 (Waveguide) と呼ばれる薄型光学系です。Birdbath 方式に比べて素通しに近い透明度を維持しながら、レンズ内部で光を全反射させて目に届ける仕組みで、Even Realities G1 や Snap Spectacles など最新の眼鏡形状デバイスの多くが採用しています。本記事では編集部が、導波路の基本原理から方式の違い、採用機種、現時点で残る課題までを一次情報をもとに整理します。

概要

導波路 (Waveguide) とは

導波路とは、薄いガラスまたは高屈折率プラスチック基板の中で光を全反射 (TIR: Total Internal Reflection) させて目元まで運ぶ光学系のことを指します。光源 (マイクロ LED や Micro-OLED、LCoS など) からの像をレンズ端の「入射格子 (In-coupler)」で基板内部に取り込み、レンズ内を反射しながら伝搬させ、視界にあたる「出射格子 (Out-coupler)」で目に向けて取り出す、という流れです。

Birdbath 方式が半透過ミラーとビームスプリッターを組み合わせる関係上、レンズ全体に厚みが出てサングラス調になりやすいのに対し、導波路は基板自体が薄く、外光透過率が 80% を超える素通しに近い見え味を実現できる点が大きな違いです (Karl Guttag のレポートでは Birdbath 方式の透過率は 15〜25% 程度に対し、回折導波路は 85% 以上とされています (KGOnTech, 2017 / 2025、2026-04-25 参照))。普段使いの眼鏡として違和感なくかけられるかどうかは、この透過率の差が大きく効いてきます。

導波路の主な種類

導波路は光をレンズ内に取り込む「格子 (Grating)」の作り方で分類されます。SID (Society for Information Display) などの学会発表では、現時点で実用化されている方式は大きく 3 つに分けられます。

反射型 (Reflective / Geometric)

反射型は、レンズ基板内に微小なミラーアレイを埋め込み、幾何光学的に光を取り出す方式です。代表例はイスラエルの Lumus が開発する Geometric Waveguide で、CES 2026 では世界初となる 70 度超の対角 FoV を持つ「ZOE」と、改良版の「Z-30」が発表されました (Lumus 公式プレスリリース, 2026-01、2026-04-25 参照)。

Lumus の発表によると、改良版 Z-30 は競合の回折型に比べて最大 10 倍の輝度効率を持ち、8,000 nits/Watt 以上を達成するとされています (Lumus 公式, 2025、2026-04-25 参照)。色再現性や前方への光漏れ (フロントプロジェクション、いわゆる eye glow) の少なさにも強みがあります。一方で、ミラーアレイの精密な接着工程が必要なため、量産コストの高さが従来からの課題です。

回折型 (Diffractive)

回折型は、レンズ表面に nm スケールの微細凹凸 (表面浮き彫り格子、SRG: Surface Relief Grating) を刻み、光の回折を使って向きを変える方式です。製造はナノインプリントなどの半導体プロセスに近く、量産性とコストの両面で有利とされています (Avantier Inc. 技術解説、2026-04-25 参照)。

採用例が最も多く、後述する Even Realities G1 / Snap Spectacles のほか、業務専用機の Microsoft HoloLens 2 や Magic Leap 2 もこの方式の派生に分類されます。Magic Leap 2 では屈折率 2.0 という高屈折率ガラスと両面ナノインプリントを組み合わせ、対角 70 度の FoV を実現しています (Magic Leap 2 公式 White Paper、2026-04-25 参照)。デメリットとしては、波長依存性に起因する虹模様や色ムラ、フロントへの光漏れが挙げられます。

全息型 (Holographic / Volume Holographic)

全息型は、感光性ポリマー内部に屈折率の周期変化を「記録」する形でホログラム格子を作る方式です。代表例はアメリカの DigiLens で、容積ホログラフィック格子 (VHG: Volumetric Holographic Grating) と呼ばれる技術を採用しています (DigiLens 公式、2026-04-25 参照)。

DigiLens は 2025 年に三菱ケミカルとの提携を発表し、従来のガラス製とほぼ同等の性能を持ちながら、軽量・低コスト・耐衝撃性に優れたプラスチック導波路の量産に向けて動いています (Road to VR, 2025-09 報道、2026-04-25 参照)。容積ホログラム方式は特定波長・角度に対する回折効率を高くできる利点がある一方、量産時の安定性とコストはまだ手探りの段階という評価が一般的です (Springer Nature, eLight 2023 レビュー論文、2026-04-25 参照)。

各方式のメリット・デメリット

それぞれの方式の特性を、視野角 / 光効率 / 量産性 / 視認性 (虹模様や eye glow) の観点で整理すると次のような傾向があります (各社公式値および Karl Guttag による測定レポートを総合)。

簡潔にまとめると、現状は「量産性に振った回折型」と「画質に振った反射型・全息型」というすみ分けが続いている、と整理できます。

採用機種の例

Even Realities G1 (回折型)

ドイツ系スタートアップ Even Realities が販売する眼鏡形状の AR グラス。デュアルマイクロ LED プロジェクターと回折導波路を組み合わせ、視野角 25 度、640 × 200 ピクセルのモノクロ緑表示を実現しています (Even Realities 公式、2026-04-25 参照)。

格子設計とフレームの前傾角の組み合わせで eye glow を視界の外に逃がし、度付きレンズを直接導波路に貼り合わせる構造で、外見上は通常の眼鏡とほぼ区別がつかない仕上がりとされています (Engadget レビュー, 2025、2026-04-25 参照)。日常使用に振り切ったスマートグラスにおける、回折導波路の代表的な実装例です。

Snap Spectacles (回折型)

Snap が開発者向けに展開する AR グラス。2024 年に発表された世代では、デュアル LCoS プロジェクターと回折導波路を組み合わせ、対角 46 度の FoV と 37 PPD (Pixels Per Degree) を実現しています (Snap 公式 Newsroom, 2024-09、2026-04-25 参照)。

CEO の Evan Spiegel は AWE 2025 で、より小型・軽量化したコンシューマー版を 2026 年に投入する方針を示しています (Road to VR, 2025-06、2026-04-25 参照)。視野角と PPD のバランスは現行のコンシューマー寄り AR グラスとしては高水準です。

スコープ外: Magic Leap 2 / Microsoft HoloLens 2

業務 / 産業用途を前提にした MR ヘッドセットですが、回折導波路の代表例として技術文献での参照例が多いため簡単に触れておきます。Magic Leap 2 は屈折率 2.0 の高屈折率ガラスと両面ナノインプリント加工で対角 70 度の FoV を実現しており (Magic Leap 2 公式、2026-04-25 参照)、HoloLens 2 は表面浮き彫り格子 (SRG) で対角 52 度を達成しています (SID 学会 2023 解説論文, Wiley Online Library、2026-04-25 参照)。

スマグラ Journal の取り扱いスコープは日常使用レベルの眼鏡形状デバイスのため、これらの業務専用機を主題として推奨することはありませんが、導波路技術そのものを学ぶうえでは引き続き重要な参照点です。

課題と今後

導波路技術は急速に進歩していますが、コンシューマー眼鏡形状での「普段使い」を満たすにはまだいくつかの課題が残っています。

導波路は「眼鏡として違和感なくかけられる AR」を成立させるための本命技術として位置づけられており、Apple や Google、Samsung、Meta も研究・製品開発を加速させています。コンシューマー機の本格普及には、視野角・コスト・カラー再現の 3 軸でもう一段の進歩が必要、というのが現時点での共通認識です。

まとめ

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参考文献

執筆

スマグラ Journal 編集部

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スマートグラスに特化した情報を、読者の意思決定に役立つ形で整理してお届けする編集チーム。合同会社バリイドが運営。

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